気付くと電車は過ぎ去っていた。
 呆然と佇む私の目の前には、踏切をわたってきたらしい濃紺の制服の女性が、いた。

 「あの、すみません。」

 脳内コンピュータのランダムアクセスメモリーの中では、目の前の声をかけてきた女性と結婚する式典のプログラムが起動していたので(結婚式のスピーチでは、どのような話をすれば良いのかに困って、会場で右往左往している姿が瞼裏に浮かんだ)、あわててそのストーリーをデスクトップ上のゴミ箱にドラッグすると同時に、シミュレーションプログラムを起動して、善後策を練ることにした。