「好きです。先輩の事……ずっとずっと前から」
 ざっ。
 向かい合う二人の間に、一陣の風が吹く。
 突風に少女のツインテールがバサバサと暴れた。
 しかし、少女はその風に乱れる髪を直すことも抑える事もせず、まっすぐに向かい合っている相手を見つめた。
 彼女は今、一大決心の元この場所に立ち勇気を振り絞って先ほどの言葉を紡いでいた。
 伝えたい気持ちはただ一つ。「好き」という言葉だけ。だから、もういう言葉はないと、少女は気持ちをぶつけた相手の出方を待った。
「ごめん」
 帰ってきた言葉は、拒絶。半分はそれを予想していたとしても、やっぱり胸がぎゅっと締め付けられた。
 涙を流すまいと一度きつく唇をかみしめ。少女は問う。
「なぜですか? 理由を聞かせてください」
「後輩にしか見えないんだ……ごめんね」
 繰り返される拒絶。とうとう耐え切れず少女の瞳から滴がこぼれた。
 その姿を見て、向かい合っている者は僅かに手を伸ばしかけるが、すぐに引っ込めてずっと少女を見守った。
 そんな姿を目の端に止めた少女は、胸が苦しくなった……けど、そこがまた嬉しくもあり。少女は笑った。
「先輩、そんなだからタラシって言われるんですよ!」
「え!」
 あからさまに嫌そうな顔をする相手に、今度は声を立てて笑う。その姿を見て、眉間に皺を寄せていた相手もうっすらと微笑んだ。
「じゃ、私はこれで失礼します。貴重な時間を割いてくださいましてありがとうございました!!」
 勢いよく頭を振り会釈して、少女は駆け出した。
 この恋はこれでお終いだ。今日はいっぱい泣いて明日からはまた頑張ろう。


 夕暮れの校舎裏。ひとつの恋が終わった。

 そして、取り残された者は深くため息を吐いて、少女の後姿を見送りながら呟いた。
「今月入って5回目か、後輩振るの……」
 紺色のセーラー服が風に揺れる。
 後輩と同じ制服に身を包む女性。違うとすれば、胸元を彩るスカーフの色だけだ。
 彼女は少女の姿を見送ると、自分も校舎に向かって歩いていく。
「普通の恋がしたいなぁ……」
 心の底から願ってやまない。彼女の言葉は誰に届くこともなく、むなしく風にとけて行った。