放送を聞いて心中に浮き上がったのは悲しいというよりも、訳の分からなさと悔しさだったという。
長髪の女は手元の小さな冊子を握りしめて、席から立ち上がると声のしていたスピーカーへと歩み寄っていった。

「これはどういうことか、きちんと説明してもらおうか!」

潰れた冊子を地面に叩きつけるように投げれば、スピーカーからは先程の放送と同じく無機質な声が流れる。

『何かご質問がおありでしょうか』
「大有りだ! 私はこんなゲームだとは聞いていない!」
『はて、どういう意味でございましょうか』

スピーカー越しの会話に女以外の参加者はざわつき始める。
それは今まで周りと同じように静かに聞いていた少女が何故怒っているのか分からない、と言った様子だった。

「このルール、おかしいじゃないか。まるでルールに沿っていれば何でも有りだ、殺そうが何しようが自由というようにしかとれない!」
『はい。その通りでございます』
「……なんだって…?」

スピーカーから流れる声の調子は全く変わらず、淡々としているわけでもなく嬉々としているわけでもない。今日は晴れてる、くらいの日常的な会話かと錯覚するほど普通に喋っているのだ。

『このゲームは自由です、ルールにさえ従えば』
「だから、このルールがおかしいと…!」
『ルールは絶対です。それ以上も以下もありません』

それではゲームを始めるまでもうしばらくお待ちください、と続けて流れたが最後。
そのまま音がぷっつりと切れてしまったらしいスピーカーを茫然と女は眺めていた。逃げやがった、とぼそりと呟いた女は長い髪を掻き上げながら自分の座っていた席に戻って何かを考えていた。
そんな女に、既に興味をなくしたらしい他の参加者たちは、各々で好きなことをしていたが。

「あの……」
「ん?」

声を辿れば、そこにはベレー帽を被った随分と幼く見える少女がいた。
女が思うに、こんな物騒なゲームに参加するにはあまりに似つかわしくない、可憐で柔らかい印象を受ける女の子に娘は少し屈んで視線を合わせた。

「君もこのゲームの参加者なのか?」
「は、はい。わたし、コレット・テュリムって言います、良かったらコレーって呼んで下さい」
「…アテナだ。コレーはどうしたんだ?」
「その…わたし、推薦でここに来たのでゲームが何かよく知らなくて…アテナお姉さんも推薦されてきた人なのかなって…」
「悪い、私はゲームについて何も知識がないんだ。良ければ聞かせてくれないか」

コレーは頭からずり落ちそうなベレー帽を押さえながらアテナを見つめる。しかしアテナは首を傾げていた、推薦という言葉に心当たりがない上に目の前の少女はそれで来たと断言している。
アテナの言葉にきょとんとしていた少女だが、アテナは悪い人間ではないと思ったのかニコリと笑ってから軽く自分の言葉で説明してくれた。