ノーカウントだなんて、あんな風にキスをしておいて、そんなこと言うのはずるい。
なかったことになんて、できるはずないのに。

だけど、秀平は翌日も悔しいくらい普段通りで。
そんな秀平に、私は一体どういうつもりでキスしたのか聞くこともできなかった。


それから一週間が経ったけど、秀平の側に希美ちゃんがいるのは相変わらずで。
むしろ、前よりも頻繁に秀平に会いに来るようになった気さえする。

別に秀平を責めるつもりなんてないし。
責任をとれと詰め寄るつもりもない。
だけど、私のいたい場所に希美ちゃんがいるのはやっぱり見ていて辛い。

「お前最近、元カノと仲良すぎじゃね?」

休み時間、タケルが廊下から顔を出した希美ちゃんを顎で指して言った。

「ああ…。
もう一度付き合うことにしたから」

秀平がしれっと答えるものだから、私もタケルも一瞬聞き流しそうになった。

「え?」

「何だそれ、聞いてねぇよ!
いつからそんなことになってんだよ」

タケルの言葉に秀平は少しためらった後、私から視線を逸らしながら、先週の金曜、とつぶやいた。

私は言葉を失う。
だってそれは、秀平が私にキスをした翌日だったから。

「付き合いたいって言われて、断る理由もないだろ」

「───お前、本当にそれでいいのかよ」

タケルがいつになく真剣な様子で問うと、

「ああ」

秀平はそう言い捨てて席を立った。