洞窟を出るとすぐ、袈裟を売った。
とにかく路銀に困ったからだ。

どうしたものか。

霊力を失ってしまった。
山に帰るわけにもいかない。

大師さまに対してただただ、申し訳ない気持ちと
恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
そして怖かった。

きっと、大師様のことだ。
自分が破戒僧になったことも、解っているにちがいない。

逃げよう。
山からできるだけ遠くに。

港に向かった。

港で、少年とぶつかったとき、財布を掏られたのがわかった。

「泥棒!!」

少年を追いかけたが、人ごみに撒かれた。

だが、自分にとっては命の路銀。
執念深く奴をさがした。


アイスクリームをなめてぶらついている奴を発見した。

「野郎!!」

そいつをひっつかんだ。

「金を返せ。」

「もう使っちゃったよ。」

つかんでいる奴のむなぐらをよく見てみると、それは上等の服だった。

無駄だ。
俺は手を離した。

とっととその場から歩き出すと、なぜか泥棒の奴が、俺の後を追いかけてきた。

「ねえ、なんで殴らないの?俺、あんたの金、使っちゃたんだよ。」

俺は無視して立ち去った。


万事休す。困った。
路頭に迷って、港をうろついていると、労働者を募る船があった。
遠い異国の地バビロニアでコロッセオ建築の工事人夫を募集していた。
食事つきで寝床もあるらしい。
選択の余地なく、船に乗る列に並んだ。

名簿に名前を書かされた。
俺は、昔、山で兄者が隠し持っていた漫画本の悪党の名前を書いた。

サダクロー。