タタン、タタン、タタン… 一定のリズムで音を奏でながら電車が見慣れた駅を去って行く。 電車の中は人が疎らで座席は充分に空いていた。 そんな中、あたしは無言で隅の方に座っていた。 そしてあたしの隣には、得体の知れない男が一人。 男は黒い帽子を深く被っていた。 横目でちらり、と盗み見た所で ちゃんとした顔は確認出来無さそうだった。 男は下を向いたまま、無言だった。 だからあたしも何も喋らない。