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椿くんが連れていかれたのに私は動けないでいた。

片手を床につき、拳を握りしめる。パタパタと落ちていく大粒の雫。


「……ばきくん……椿くん……っ!」


泣いてばかりでは何も変わらないのに、泣くしか出来ない。

お医者様に手当てをしてもらった腕の痛みよりも椿くんが連れていかれた痛みの方が大きかった。

何をしているのか分からないけど、今頃……と考えて居てもたってもいられなくなる。

だけど、行った所で何も出来ないのは、まだ対峙していないのに恐怖で動けなくなる足が示していて。


「っ――」


ならば、と違う考えを持ち足を動かせば容易に駆け出す事が出来た。