朝、目を覚まして一番に見た景色がいつもと違うことに一瞬心臓が跳ね、不安を駆り立てた。



が、自分は今京都へ社員旅行へ来ているのだと隣で眠る七海と莉奈で理解した。



その時間、わずか2.5秒。



睦月は目覚ましが鳴る3分前に目を覚ましたため、二度寝する気にもなれず、ふらつきながら洗面台へと歩んだ。




昨日の話を思い返し、自然と顔がほころんでいるのを鏡の前に立ちやっと気付く。



一人であたふたと赤くなる顔を必死で元に戻そうとするのに、まだ誰も起きていなくて良かったと安心のため息をついた。



正直、今思えば自分が沖田と文通して、そして海を越えて会いに行ったなんて夢みたいだ。



もしかしたら今まで夢を見ていたのかもしれない。



そう思えるほど、沖田との思い出は過去になっていた。



それでも、楽しかったあの日は一生忘れない。



沖田の顔も、手も、唇も、全部が愛しかった。



睦月は「そうだ」と、まるで学生に戻ったように子供のような顔でひらめいた。



皆を起こさないよう、なるべく音を立てずに準備を済ませる。



そして、忍び足で旅館を出た。