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「きっ…紀一さんっ。」

赤い顔をしてさくらが声をあげる。
紀一は、あのまま玄関のドアを閉め、何がなんだかわからなくなっていたさくらを抱きしめた。

それが嬉しくもあり、だが恥ずかしさのほうが上回っていて、さくらは頭がクラクラするのを感じていた。


「あの…紀一さん、荷物が…。」

ドキドキと高鳴る胸を抑えることも出来ないほど強く抱きしめられて、困惑する。

「…抵抗しろよ。」

ボソッと紀一が呟いた。
さくらが紀一の腕の中で顔を上げ、紀一を見つめて、

思わず笑ってしまった。

まるで、子供がだだをこねるような、拗ねた表情。

施設の中で、自分よりも小さい子供のこういう表情なら何度か見たことがあるが、まさか紀一がこんな顔をするとは思っていなかった。

「かわい…。」

クスッと笑うと、
紀一がむっとした。

「…二度とあいつに近づくな。あいつが来たら俺が出る。」

「やきもきですか?」

さくらの言葉に沈黙が走る。

「それを言うならやきもちだろう。どこで覚えた、そんな言葉。」

「えへ、テレビで。」

さくらが恥ずかしそうに笑ったので、紀一は馬鹿馬鹿しくなってさくらから離れた。

何か自分の性格が変わっていきそうだと、紀一はため息をついた。