彼女の前に、次々と空のジョッキが増えていく。


 もう一時間も飲みっぱなしだ。



「大丈夫なんすかね、あの人……」

 俺はカウンターの奥で肉じゃがを盛っている店長に言った。


「あの人? 誰だ?」


「あのカウンターで飲んでる女の人です。もう大分飲んでるみたいですけど……」


「ああ、あの娘か」

 俺が指した方を見て、店長はそう言った。


「知ってるんすか?」


「いや、知ってるっつうか、常連だよ。よく来るんだ。いつもは誰かしらツレと一緒なんだが……今日は一人か。確かにいつもより飲んでるなぁ」

 店長も彼女を見て、少し気にかけた様子だった。

 でもすぐに、


「まぁ、あんまりひどくなるようなら止めてやってくれ。……ほら、持ってけ。二番テーブル」


 そう言って、俺の前に器を置いた。


 確かに、無茶な飲み方をする客なんてたくさんいるから、いちいち気にもしれられない。

 逆に、絡まれることもあるから、苦手だ。


 なのに俺は、やたらと彼女のことが気になって、バイト中何度も彼女のことを盗み見た。


 なんか、やけ酒っぽいな。しばらく見ていてそう思った。


 仕事が上手くいってないとか、嫌なことあったとか……?

 いや、見る限りそんなキャリアウーマン的な雰囲気でもないし……

 やっぱ、女の人が一人でやけ酒っていったら、失恋とかかな。


 と、俺はよく考えれば失礼なことまで考えていた。


 でも、もし失恋っていうなら……少し親近感がわくかも……