九時三十一分。

 約束まであと三十分だ。


 俺は、待ち合わせの時計場所で、一人落ち着かなかった。


 落ち着かないのは無理ない。ていうか、落ち着けっていう方が無理。


 なぜなら、今日はナツとの初デートの日だから!





 ナツを家まで送った日、そのあとのこと。

 俺は家に帰ってから、言った通りにナツに電話した。


「…はい」

 電話を鳴らして十秒ぐらいでナツが出た。


「あ、ナツー? 俺、旬。家着いた?」


「もうとっくに着いてるよ。だって三階なんてすぐじゃない」

 電話の向こうのナツは小さく吹き出していた。


「あ、そっか。へへっ。俺は今帰ってきたの」

 俺も笑いながらそう言った。


「そう……」


 ナツ、声だけでも可愛い!

 俺は、まだ一言二言のナツの言葉だけでそう感じた。


 やばいな、俺……自分で思った以上にハマりまくってる。


 さっき別れたばっかなのに、もう会いたい……


 あ、そうだ。


「なぁ、ナツ。今度の土曜、ヒマ?」

 俺は思いつくままに口にした。


「え…土曜? ……特に予定はないけど」


「じゃ、どっか行こ! ナツとデートしたい」


 会いたいなら、会えばいい。付き合うなら、デートは基本だ。


「え………うん。いい、けど…」

 ナツは小さな声で言った。


 よっしゃ! デート決定!


「じゃあどこ行く? ナツ、どっか行きたいところある?」


「あたしは…特に……」


 そうか、そうきたか。

 実を言うと俺もない。


「んじゃ、俺考えとく。でも、ナツが土曜日までに行きたいとこ出てきたら言ってくれな!」


「うん……分かった」