意味も分からないうちに、あたしには新しい彼氏ができてしまったらしい。

 それは、今、あたしの上にいる、名前も知らない男。

 彼は嬉しそうに、あたしに何度もキスをしている。


 普通なら、名前も何も知らない男にこんなことされたら嫌悪感で一杯になるだろうけど、どうしてかこの時は、抵抗しようとか想わなかったし、嫌な気分にもならなかった。


 それどころか、そうされてることが妙に心地よくて、落ち着いていた。


 こういう風にされるのって久しぶりかも……

 あいつ(元彼)は、全然こんなことしなかったし……


 …って、元彼のことを思い出したら、ものすごく嫌な気分になった。


 最悪……もうあんな男のこと思い出したくないのに……


 あんな男っ……できるのは仕事ぐらいじゃない!


 ……仕事……?



「あっ!」

 あたしは叫んで、体を起こした。


「今何時!?」


 あたしはベッドの側に付いていた時計を見た。


 八時三分……


「嘘っ…もうこんな時間なの!? 仕事行かないとっ……」


 『仕事』で重要なことを思い出した。

 今日は思いっきり平日。出勤しないといけない日。

 それに、いつもなら、もうとっくに家を出てる時間だ。


 あたしは急いでベッドから降りた。


「あたしの服どこ!?」

 部屋を駆け回りながら、あたしは自分の服を探した。

 昨夜の記憶がないから全く分からない。


 でも、幸いすぐにハンガーにかけてあるのを見つけて、あたしはすぐに着替える。


 着替え終わって、ふと近くの鏡を見ると、自分の顔が映った。


「あっ、どうしよう、スッピンだ~……」


 酔ってたはずなのに、きちんと服をハンガーにかけてたり、肌のために化粧も全部落としてたり、やることはきちんとしている自分が、この時ばかりはちょっと憎らしかった。