「ナツ!」

 俺は立ち上がってナツに近付いていった。


「お帰り、ナツ!」


 よかった。ナツに何もなかったみたいで……


 寒さでこわばっていた顔が、ほっとしたのもあっていつものように緩むのが自分でも分かった。


 ……て、だめじゃん! ヘラヘラしないって決めたばっかだったのに……


「ただいま……」

 ナツが小さな声で、俺に言った。


 よかった……返事してくれた。

 さらにほっとして、また顔が緩んでしまう。


「旬……本当に、ずっと待ってたの?」

 すぐに帰って、とか言われると思ったから、少し安心した。


「うん」


「こんなに寒いのに……風邪ひいても知らないわよ」

 そう言うナツは、いつものナツだった。


「大丈夫だって。俺、バカだから今まで一回も風邪ひいたことねえもん」


 よかった。ちゃんと話してくれてる。ほっとして俺は笑っていた。


「ふぇっぶしょん!」

 何の前触れもなくくしゃみが出てしまった。


「やっぱちょっと寒いな」

 かっこわる……大丈夫って言ったばっかだったのに。

 思いっきり鼻から息を吸うと、ズルルッと鼻水が音をたてた。


「旬、鼻水出てる」

 ちょっとはにかんだような顔でナツが言った。


「え……マジで!?」


 ダサッ! 俺、ダサッ! こんな場面で鼻水なんて出すもんじゃないだろ!

 俺は手の甲で鼻の下をこすった。


「ほら、ちゃんとかんで」

 ナツがティッシュを俺の鼻にもってきて言った。


 俺は言われた通りに鼻をかんだ。


 ジュルルッと自分でも思った以上の鼻水が出た。


「うわっ。大量」

 予想以上で俺は驚いて言った。


 そしたら、ナツが笑った。


「へへっ」

 ナツが笑ってくれた。それが嬉しくて、俺も笑った。


「寒かったよね……早く中、入ろ」

 いつも通りに優しくナツが言ってくれた。


「うん」

 俺は更に嬉しくて頷いた。