今日はバレンタイン。平日だけど、ナツの家に泊まりの日。


 俺は今日が楽しみで楽しみで楽しみで……(略)しょうがなかった。

 なのに……


「はぁー……」

 俺は更衣室で制服に着替えながらため息をついた。


 なんでこんな大事な日にバイト入ってるんだよ、俺。


 今日はカフェのバイトが入ってる。


 バレンタインだし、みんな用事(デートとか)が入ってるみたいで、入りたくないって言っていた。勿論、それは俺も同じことだ。


 だけど、誰も入らないこともできないから、ジャンケンで決めた。で、俺はあっさりと負けてしまったのだ。


 何でこんな日に限って……


 幸い、俺は昼過ぎから夕方の時間で、六時には上がれる。どうせナツが仕事終わるのも五時頃だから、ちょうどいいって言えばちょうどいい。

 どうせバイト入ってなかったらすることなんてなかったし、時間つぶしだと思えばいいんだ。


 俺は携帯で時間を確認した。そろそろ入らないと……


「あ」


 携帯の画面の端の電池の表示が、あと一つになっていた。この状態だったら、もし誰かからメールがきたり、電話が来たりしたらすぐに切れてしまうかもしれない。


 バイト中は電源切っておこうかな。ナツからは多分来ないだろうし。


 そう思って、俺は携帯の電源を切って、ロッカーの中に携帯を置いていった。




「いらっしゃいませ。二名様ですか?」


「はい」


「ではこちらのお席にどうぞ」


 今日はこのやりとりが多い。

 しかも『二名様』というのは、男と女の組み合わせ、つまりカップルだ。


 今日は、店長がバレンタインの特別企画をやると言って、カップルの客は二人で二百円引きという『バレンタイン割引』をしている。

 そのせいでいつもより客が多い。それも、カップルの。


 つうか、何、この忙しさ!?


 客を席に案内して、オーダーとって、ケーキ運んで、会計して、空いた席片づけて……


 いつもはわりとゆったりできる仕事も、今日は急いでやらないといけない。


 次から次へと客、客、客……しかもみんなカップル!