「ナツー。どうしてもダメ?」


「ダメ」


「どーおしても?」


「ダーメ」


「……と、思わせといて?」


「ダメだってば」


 さっきから電話でこればっか。ナツは全くいいっていってくれない。


「何でダメなんだよぅ」


「だから、言ってるでしょ。平日だから」


「……せっかくのバレンタインなのにー」


 そう。間近に迫ったバレンタインに、会うことは決まってるから、俺はナツに泊まりでいいよな? と聞いたら、


『平日だからダメ』

 と、あっさりと言われてしまったのだ。


 それでさっきから泊まりにしてもらおうと粘っているのだけど、ナツの意見は全く変わらない。


「旬。ちゃんとチョコはあげるから。あ、ケーキの方がいい? チョコレートケーキ」


 ナツの手作りチョコレートケーキ……


 いやいやいや。揺り動かされるな俺!

 俺はその日ケーキよりナツが食いたいんだ!


 つうか、普通さ? バレンタインなんだから、平日でもその日は特別じゃん。ナツの方から泊まりがいいとか思わないもんなのか? そりゃ、ナツはイベントとか、必要最低限のことすればいいみたいだけどさ?



「旬ー? ケーキいらないの?」


 そんな……いくらケーキだからって、いくらナツの手作りだからって、心動かされるわけが……


「いる!」


 ありますけど。思いっきり。


「クリームたっぷりにしてくれな? ……あと、次の休みは絶対泊まりな?」


 悪あがきでそれだけ条件をつけた。


「うん。分かった」

 とりあえず、ナツがそう言ってくれたから、ここは我慢することにする。


 でも……泊まりがよかったなぁ……