濃いグレーの石貼りの床に、しゃがんでいた。


壁面の白いタイルやバスタブの縁など自分の髪の毛が一本でも付着していないか入念に点検していた。


見落としがないようなので浴室を出ることにした。


一枚のガラスが浴室と脱衣所を区切っていた。


ガラス張りなので脱衣所から浴室にいる全裸の私の姿が丸見えだ。


うちのお風呂とこの家のお風呂は違っていた。


うちのマンションと比べて葵のマンションの浴室はデザインが洗練されている。


うちのは古いけれど、この浴室は現代的だ。


こんなキレイな場所を汚しては葵に嫌われてしまう。


シャワーでもう一度その辺を洗い流そうとハンドシャワーのシャワーヘッドを掴んだ。


視線を落として、なにげなく石鹸台に置かれた石鹸に着目した。


シャワーヘッドを元に戻して石鹸を触ってみた。


あめ色の高級石鹸を調べる。


色でわかりにくいから見落としていた。


髪の毛が一本だけ絡みついていた。


葵に嫌われることを恐れて私は石鹸に絡みついている髪の毛一本を爪で取ろうとした。


でも、なかなか取れない。


爪の中に石鹸が入るし、石鹸は爪によってところどころ削られる。


細かい作業にイライラした。


悪戦苦闘している、まさにその時、背後に人の気配を感じた。