「へえ、それで――あなたは俗に言うキューピッドだと」

 冷たい麦茶をグラスに注ぎながら、あたしは訊ねた。

 リビングに置かれたガラステーブルを挟んだ向こう側、ソファにしっかり腰を下ろしている美少年に向かって。

 聖堂を出て、校門から普通に下校、そして徒歩わずか五分の自宅へ――半ば強制的に案内させられた。

 その前にしっかりとその髪と瞳の色を黒に変え、背中の羽もひっこめてしまったその姿は、今では人間にしか見えない。

 ちなみに服装も、どういうわけか白いTシャツとジーンズ、というごく一般的な男の子のものに変わっている始末である。

「そゆこと。っていっても、あくまであんたら人間側の呼び名であって、正確には違うんだけどな。まあ、そう思ってもらっても俺は構わねえぜ」

 うんうん、となぜだか得意げに胸を張る彼は、おいしそうに喉を鳴らしながら麦茶を飲んでいる。

「えっと……天使、じゃないって言ったよね? じゃあ、神様……とか?」

 確かキューピッドって、愛の神様か何かじゃなかっただろうか――と昔読んだ絵本からのうろ覚えな知識を元に訊ねると、これまたアモルは眉を寄せる。

「うーん、神、って言われてもお前たち人間が信じる宗教上のもんとはまた違うし、実際俺程度でそう呼んでいいのかは自信ねえなあ。でも、人間には不可能なことができる存在を神と呼ぶとしたら、そっちに近いってくらいのレベルの話。つまり――簡単に言えば、神の親族、遠縁の親戚? 使いっぱしり、ぐらいが一番しっくり来るかもなー」

 ニカッと笑われてしまって、口をあんぐり開けるあたし。

「本当に人間じゃないの――?」

 もう一度聞きたくなるのも当然の心理ってやつだろう。

 ペラペラと説明してくれるけれど、使いっぱしりだとか何とか、ますます人間臭い単語まで飛び出すのだから。

 しかも、彼が正確にどういう存在なのかは置いておいて、かりにもキューピッド(のようなもの)がお茶を飲むなんて聞いたことがない。