「土方さん、俺と平助だ。
 入るぞ」


連れて来られたのは、屯所で唯一明かりの灯る部屋の前だった。


一緒にいた他の隊士たちは、門の所で別れた。


今隣にいる、しんぱっつぁんさんと、私に縄を掛けた少年(たぶん、平助さん)は、隊長格らしい。



中から「どうぞ」と言われ、襖を開け、中に通される。


部屋に入ると、目の下の隈でさえ色っぽく見える、俗に言う美丈夫がいた。




「・・んで、こいつは誰だ?」


「辻斬りをとっつかまえてくれた‼︎」


ばんっと私の背中を叩きながら、がははと笑うしんぱっつあんさん。


せ、背中…痛い…



呆れたような溜息をついた後、土方さんの視線は私に向いた。


「……で?」

「…………?」

「なんで、縄で縛られてんのかって聞いてんだよ。」


いやいやいやいや、で?だけで分かるかぁぁぁあ‼︎


それになんで縄で縛られてるのかはこっちが聞きたいわ‼︎



「…………さぁ?」


「…新八。」


「だって何聞いてもこたえてくれなかったから‼︎もしかしたら危ない薬でも使ってんのかと思って…」


「…何?」


薬という言葉に土方さんの私を見る目が鋭くなった。


…………待てよ、薬?私が使ってるって思われてる?

しかも、何か聞いてきた?
全く記憶にない。


え、どうしよう、本格的に命の危機?


ふと視線に気づいて顔を上げるとばちっと土方さんの視線と交わった。


じっと私を見つめるそれは、私自身を見極めようとしているかのようだ。


ここで目を逸らしたら負ける。
絶対に逸らすものか…‼︎


と、意気込んだ矢先に、土方さんは口を開いた。


「…………薬をやっているような奴の目じゃねぇが…」


えぇ、そうでしょうとも‼︎
だって私は薬に手出してないですもの‼︎

やった、これで疑いが晴れた‼︎


「ま、薬ってのは疑ってたわけじゃねぇんだよ、土方さん。」



やけに真剣味を帯びたしんぱっつぁんさんの声が、四人しかいない部屋に響いた。


「…………ほぅ?」


「わざわざ縄で縛って連れてきたのは、名前を聞いても答えなかったからだ。いつまでも顔俯けたままでな。もしかしたら、聞かれたらまずいもんなのかって思ってな。そんで、平助と話して縛って連れてきたんだ。」



あー…………もしかして、話しかけてきた時ってのは、私が被害妄想に浸っていた時?


その時だったら、話しかけられて気づかなかっていうのも頷ける。

周りのことが気にならなくなっちゃう時だから。

そっかぁ、あの時かぁ…………


「でもま、俺たちの思い過ごしだったようだ。」


その言葉とともに手首を縛っていた縄が解けた。



あり?