やがて、義務教育を終えると共に上京し、
お菓子屋さんの売り子として、就職。

 寮費や、まかないの費用を差し引くと、
決して十分なお給料ではなかったけれど、
 寮も木造で、共同便所で、
お風呂は近くの銭湯で、
部屋も六畳一間、畳敷きだったけれど、
 誰にも気兼ねや遠慮のいらない
自分だけの空間が、私には
天国、極楽、シャングリラでした。

 今の時代、中卒の私が
就職出来ただけでも、御の字です。

 そして、入寮しているのは
地方出身者ばかりなので、
 さまざまな方言やご当地グルメなどの
情報が飛び交っており、
 夏帆には目から鱗が剥げ落ちる様な
新鮮な話ばかりでした。

 特に奈良県出身の杉本先輩の昔話は
語り口が実に見事で、まさに真にせまる迫力は
恐ろしくさえもありました。