風が強く吹き抜ける、高層ビルの屋上。


髪が靡いては顔に当たり、少し不愉快だった。


「………110……2回目?」


指を折り、数を数える。


もう曖昧になってきた数字。




僕が死のうとして死ねなかった数。


「いい加減、死にたいなぁ……」


下を覗き込みながら、ポツリと呟く。


下では、蟻のように小さい車がせわしなく動いていて、落ちたら一溜まりもないことは見てわかる。


「はぁ………」


フェンスに寄りかかりながら、腹の傷を押さえる。



ついさっき、クラスメートに斬りつけられた傷。

あれだ、いわゆる虐めというやつ。


それが辛くて、早々に自殺を決行したのだが、何故か死ねなかった。


怖じ気づいて、中途半端にした訳ではない。


ちゃんと、包丁を喉に刺したのに、次目が覚めたのは病院のベッドの上。


心配そうに覗き込んでいた看護師さんと目があった。


初めての自殺が失敗に終わり、
それから、毒を手に入れたり、溺れてみたり、焼かれてみたり、首締めてみたりしたが、どれも死ねなかった。




学校では、何度も自殺未遂を繰り返す僕は異様な目で見られ、



さらに虐めは酷くなる一方だった。





「何がいけないんだろうね……」



クスリと笑う。


独り言なんて虚しいだけだ。


サァアアと吹く風は、僕の胸の隙間を更に広げるだけ。



僕はなんかそれが耐えられなくなって、




勢い良く、地面を蹴った。






―――パシッ




「ぁ………え……?」



足元には何もない。空を掻いているだけ。


だけど、下には落ちていかない。


手首の皮膚が引きつる感覚。顔を上げれば、綺麗な女の子と目が合う。


深紅の瞳は、真っ直ぐ僕を見据えて、薄く形のいい唇が言葉を紡ぐ。



「……落ちても、良いことなどないぞ……?」


「ぇ……、どういう意味……?」