side:Jun Kusakabe



「おねいちゃん、ねちゃったね」

名前も知らない彼女は泣き疲れたのだろう。ぼくの胸にもたれかかり、眠ってしまった。


祈(イノリ)は、静かな寝息をたてて眠っている彼女を起こさないよう気遣い、小さな声でそう言った。


「そうだね」

ぼくも小さな声で祈に返事をすると、自分の腕の中にいる彼女をあらためて見下ろした。



熱が下がったおかげで顔にはずいぶん赤みが戻っているものの、それでもまだ顔色は悪い。

赤く腫(ハ)れぼったい瞼(マブタ)はさっきまで泣いていたからだ。

ややつり上がり気味の目尻から頬に向けて涙が何筋も伝っていた。



『ごめんなさい』


『ごめんなさい』



そう言って何度も謝る彼女は、いったいどんな悲しみを背負っているのだろうか。


そんな彼女が今、ぼくの腕の中で眠っていることがごく自然に思えるから不思議だ。

こんなおかしな感覚はぼくにとってはじめてで、正直どうしたらいいのかわからない。


彼女とぼくは何の接点も持たない赤の他人のはずなのに、なぜか血の繋がりよりも濃い何かを感じる。


……ほんとうに。

「ぼくはどうしたらいいんだ」


「パパ……。おねいちゃんをねかせなきゃ!!」

戸惑いにも似た感情を抱いていると、祈が、『ぼくがどうすればいいのか』を教えてくれた。


さすがは祈。
とてもいいアドバイスだ。