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何もない暗闇だけの空間が広がっていた。


そこに、当時の彼と今の彼がふたり、並んで立っていた。



――夢を見ている。



すぐに気がついた。


だとすれば、これは明晰夢というやつだろうか?


テレビか何かで現象名だけは知っていたけれど、体験するのは初めてのことだった。


「ぼく、遠くの国へ行くんだ」


ユニゾンする声に、私はなぜか涙を流していた。


意識は冷静なのに、頬はやけに熱を帯びている。


「君のことなんて知らない。昔にこだわる女は嫌いだ」


夢だと分かっていながら、心がつねられたように痛い。


「好きな人がいるんだ」


「好きな人って誰?」


彼は笑った。


「君なんかより、ずっと積極的で、ずっと情熱的な人」


「えっ?」


ふたりの彼が重なり、隣に腕を組んだ女性が現れる。