直樹は風呂に浸かっていた。
脳裏に浮かぶのは、何故か美紀のことばかりだった。

実は今日、帰り道で直樹は大に告られていたのだ。

美紀に玉拾いを冷やかされた時、急に恋心が目覚めたと大は言っていた。

そんなことがあったからこそ、直樹は自分を見失ってしまったのだ。


「ふうー」
溜め息を吐きながら、湯船に体を沈める。


(――何だろうこの気持ち?

――こんなモヤモヤしたの初めてだ。

――まさか!?

――まさか恋かー!?)

直樹はその時初めて、美紀が少女ではないことに気付いたのだった。


そして、本当の兄弟ではないから恋をしても許されることにも……。


(――ああだからこんなにも……、美紀が愛おしく感じたのか。

――でもまさか……)




「兄貴、ちょっといい? 大のことなんだけれど」
自分の恋心は伏せて、脱衣場に来た秀樹に直樹が声を掛けた。


「大の奴、美紀に恋したんだって」
直樹はストレートに秀樹にぶつけた。


「大が?」
秀樹は思わず吹き出した。


「そんな柄じゃねえだろアイツ」
秀樹は肩を震わせ笑っていた。


「そんなに笑っちゃ可哀相だよ。アイツは本気なんだから」
そう言いながら自分も笑っていた直樹。
目前に恋のバトルが迫っているとも知らずに。

そう……
直樹はそれほどまでに美紀との恋に溺れてしまうのだ。

あの感情はその前兆だったのだ。