あたしの方を見ようともしない彼。


とりあえずグラスについた水滴を拭う為、おしぼりに手を伸ばす。


そんなあたしの手が視界に入ったのか、彼がこちらを向いた。


ふいに重なる視線。


あたしが頼りなく笑って見せると、彼はフイと視線をそらした。


この先、彼にどう接していけば良いのだろう。


どんな話題なら、話が続くのだろう。


その時、波多野さんが彼をからかうように、突拍子もない事を言い出した。


「こいつこんなんやけどさ、ミライちゃんの事は、マジで気に入ってると思うから」


はっ?


いやいや、どう見ても、気に入ってるような態度には見えない。


「あたしも思った〜」


それに便乗する翼。


あたしは「何を言うの?」と言わんばかりの目で、二人を睨み付けた。


そんな意味の分からない事を言われて、きっと前田さんも困ってるはず。


そう思い、慌てて彼の方を向き直したあたしの目に映ったのは…


気まずそうに、でも照れたようにうつむく、彼の姿だった。