あれから30分ほどが経った。


入口に1番近いこのカウンターの横の席は、満席にならない限りは、女の子の待機の場所になっているようだ。


あたしはそこで、お店から貰った名刺に、カラーペンで名前を書き込んでいた。


白い台紙に、黒い文字で店名が書かれた、シンプルな名刺。


”ミライ”


漢字ではなく、あえてカタカナで書いていく。


何枚くらい書けば良いのだろうか?


今日以降は、お店にいるかも分からないのに。


その時、お客さんの席から戻って来た翼が、ハイテンションであたしの隣に座った。


翼はあたしが30分ほど暇にしている間も、新規のお客さんやヘルプについていた。


この席からは、店内の全ての席が見渡せる。


翼がついていたのは、一人で来ているお客さん。


そういう席にあたしをつけない、お店側の配慮が有難かった。


一人で席に着くのは、まだまだ不安だったから。


「あ、言ってた指名のお客さん、もうすぐ着くって!」


ポーチから手鏡を取り出し、前髪を整える翼。


あたしもつられて、手櫛で前髪をとかした。


「早く来ないかな〜」


嬉しそうな表情の翼。


お客さんにつく事を、あたしもそんな風に思える時が、来るのだろうか…


そんな事を、ふと思った。