ロッカールームから出て来ると、お店の照明が営業モードに変わっていた。


面接に来た時は、普通の家庭にもある白い蛍光灯が点いていた。


今は全体的に薄暗く、天井のシャンデリアの灯りと、所々に黄色い白熱灯が点いている。


もちろん歩いたり仕事をするにあたって、不便を感じる暗さではないけれど、この独特の雰囲気に、あたしはいよいよという緊迫感に包まれていた。


「ミライちゃん、ちょっと…」


店長に呼ばれ、カウンターの奥にある、小さな調理場のような部屋へと入る。


「お酒の作り方だけ、こいつに聞いといて」


ペコリと頭を下げるのは、さきほどトイレ掃除をしていたスタッフだった。


初めて出会った時から感じていたが、愛想のない人だ。


「えっとまず…」


彼は氷を一つ一つ掴みながら、グラスに入れていく。


「お客さんによって違うけど、だいたい量はこれくらい」


そう言って、ブランデーのボトルを傾け、グラスの底から2センチ程度まで注いだ。


「あとはこの辺まで水入れて、かき混ぜるだけ」


一通りの流れをやって見せながら、氷の容器に刺さっていたマドラーをクルクルと回す。


「簡単やろ?」


「あ、はい…」


それ自体は、そんなに難しくはない。


ただ実際にお客さんの前に行った時、スムーズに出来るのだろうか。


「後、ロックの場合はこのグラスやし、ビールとかカクテルの場合は、俺らに頼んでくれたらいいから」


ニコリともせずに、一気に話すスタッフ。


ちょうどその時、タイミング良く彼を呼ぶ店長の声がした。


「1回やってみといて」


そう言い残して、彼は忙しそうに、どこかへ走って行った。