【大河side】




体が熱い。


あいつの手を握る手に力が籠る。


早く早くと焦った様に進む足は、菜穂を小走りにさせていた。




人気のない岩場まで連れて来て、菜穂の腕から手を離す。


そして、岩に手をついて菜穂を岩と自分の体で閉じ込めた。




「たい、が……?」




焦った様に上ずった声が、昔を思い出させる。


俺の名を呼ぶあの頃の菜穂の声が、俺の脳裏に浮かんで消えた。




「なんだよ、これ」


「え…?」


「なんだっつってんだよ」




視線を下に落とす。


目付きが悪くなっているのは、自分でも自覚していた。




見えたのは、菜穂の昔とは違うライトブラウンの短い髪。


そして、細い体を覆う薄手の上着と、本当に大事な所しか隠れていない黒の紐ビキニ。




あの頃とは違う。


今は力だって、身長だって、菜穂に余裕で勝っている。




俺は片手で菜穂の顎を固定して、顔を近付ける。


菜穂は拒否するように首を振ったけれど、俺はそれをも押しのけて深いキスを落とした。





「ふぅ……っん」



菜穂の吐息にも似た声が漏れて、どこか嬉しく切なくなる。


久しぶりに聞いたそれが、俺の胸を痛めた。




――パンッ




左頬に走った痛み。


比較的小さなそれに、我に返る。


そんなに痛くは無い。


痛くは無いけれど……泣きそうな菜穂の表情が、俺を苦しめる。




「何すんのよ……この遊び人っ!!」




それは、残酷な叫び。


あの頃とは違うと、主張する、叫び。