息を切らして階段を二階まで駆け上がってみた。今の私にはここまでが限界みたいだ。
その姿を見てか見ないでかは分からないが、途中、無表情な看護師に何人か横目でみられていた。ばっかじゃないの~とか、デブだららだいえったか~ッという声がきこえてきそうな目つきだった。ちょっと息を切らしている間にチカコの顔がふとよぎった。いじめられっこのチカコ、頭が悪いチカコ、もらわれっ子のチカコ、お人よしのチカコ、男にいつもべったりのチカコ、旦那に捨てられて、子供を捨てたチカコ。どれも大嫌いなチカコ。最悪なのはそんな奴が看護士になったこと。あ~ああああああどうぞこの中では働いていませんように。「お願いします」と頭を下げませんように。こんなときだからこそ、会いませんように。話しのネタにされませんようにと願う.私のミジンコのプライド。かわいそう。
長くもなく短くもない黄ばんだ廊下を歩いていくと402号室が見えた。「ふぅー」っと長いため息をついて「よっ」と照れているように、はにかんでいるように、そして憎んでいるような顔をしている私がいる。けれどもそんな顔をさせる張本人はまるで世界中の不幸を背負った年老いた熊がいた。やられた!そんな声が私を取り巻いた。
とりあえず咳払いをして時間をしのいだ。私としては空気を呼んでいるかのようにそこから見れるきれいな空に笑った。