〜親愛なるキミへ〜
カーテンの隙間から、朝日が差し込む。
眩しそうに、キミの寝顔が歪んだ。
「もう朝だよ」
朝が苦手なキミを起こすのが、ボクの毎日の習慣。
最近、キミの帰りが遅い。
男と会ってる事を、ボクは知っている。
もう何年、キミと一緒にいると思ってるんだ。
キミの事なら、何でもわかってしまうんだから…。
今日のキミは、特に目覚めが悪い。
不機嫌そうに、ボクに枕をぶつけてくる。
「だったら自分で起きろよ」
そんなふうに突き放せたら、どんなに楽だろうか…。
ボクには、それが出来ない。
朝になればキミを起こし、夜は帰りの遅いキミを待つ。
ボクは、それだけで幸せだから…。
でも、そんな日々は永遠に続いてはくれない。
ボクに残された時間は、あと僅かなのだから…。
「行ってきます」
そう言って家を出るキミを、今日もボクは笑顔で送り出す。
その笑顔は、引き攣っていなかっただろうか?
そろそろ限界のようだ…。
体が思うように動かない。
寝ぼけ眼のキミ…
惚れっぽいキミ…
泣いて帰ってくるキミ…
全てのキミが好きだったよ。
生まれ変わっても、また一緒になりたいなぁ。
ボクは、ゆっくり目を閉じた…。
何日くらい眠っていただろうか?
ボクの時間は止まっていたかのように、時間の感覚がない。
目を覚ますと、
心配そうに、そして嬉しそうに、
キミはボクの顔を覗き込んでいた。
あぁ…
キミはボクを必要としてくれていたんだね。
カチカチカチカチ…。
ボクの心臓が、元気に音を奏でる。
今日もボクはキミの時を刻む。
チリリリリリン!チリリリリリン!!
言葉にならない音で叫ぶ。
今日もボクはキミを眠りから覚ます。
それがボクの大切な仕事だから。