もう春ということを知らせるかのように暖かい風邪が私の頬を撫でて通り過ぎた。


その風は私だけではなく、木々も揺らしなが通り過ぎて行った。


サァァァァァ――――…


目の前にひらひらと、儚げに花びらが宙を舞いながら降りてきた。


私は何故か掌を開いて差し出した。


すると、その花びらがふわり、と掌にのった。


この花びらが何処から来たのか知っている私は、その場所へと目を向ける。


「あっ…」


思わず声をあげてしまった。


何時も通りの朝


なのに


何時も見ているはずの桜の木が今日は一段と綺麗に見えたからだ…。


「綺麗…」


あまりに綺麗で儚げだったため、つい声に出して言ってしまった。


しかし、


桜の木を眺める彼女の姿はまるで、その手に握られている桜の花びらの様に美しかった。


そんな彼女を、通り過ぎていく人達は皆、その美しい姿に魅入ってしまっている。