…あの仙宮春華が休んだらしい。

「だって冬真、仙宮さんのこと気にしてたでしょ?」
と昨日の夕方俺の周りに居た女の1人が言って来た。
「あ、うん…」
「まぁ、あまり気にすることないと思うよ?よくあることだから♪」
彼女は春華と同じクラスで学級委員をやっている。

(折角今日当たりなにか仕掛けようと思っていたのにな)
内心で思ってることはおくびにも出さず俺は彼女(確か、須藤だったような)に尋ねた。
「今、『よくあること』って言ったけど、今までも休んでたりしてた?」
すると須藤は失言に気づいたのか目を丸くし(それでも質問されることを予想していたのかすぐ元に戻り)軽く頷いた。

「仙宮さんね、入学式の日以降結構休んでるの…」
須藤はとても言いにくそうに小声で言った。
「ほら、この前オリエンテーションやったじゃない?」
言われて俺は、先週のことを思い出した。
「先週も休んだの?」
聞くと須藤はまた肯定の意を表した。
「生れつき体が弱いみたいで、ほら従兄弟いるじゃない?あの従兄弟の実家が病院だからよくお世話になってた、って…」
須藤は言葉を切ると、両手を唇の当たりで合わせて秘密にして、と言った。
「学級委員とあろう者が、ついつい話し過ぎちゃった。…今の話、絶対他人に言わないでね?」

俺はわかった、と答えると須藤と別れた。

(病弱…ねぇ)
昨日の夕方見たときには、そんな印象は受けなかった。
(人は見かけに選らない…か)
「しかし、またアイツか」
俺は、昨日春華と一緒に居た従兄弟を思い出した。
「ふん。どうにも邪魔だな…」
調べた所に依ると、あの2人は授業中以外はいつも一緒でトイレ以外は離れないそうだ。
「男が居る女は、燃えるんだよな」
言いながら廊下を曲がる。

「…ちょっと待て」
春華の従兄弟について考えていたら、少し違和感に気付いた。
(アイツ…苗字なんて言った?)
「…確か、こもりだかおもりだか…」
「小森医院」といえば、この当たりでは有名な精神科のある病院だ。
「…まさかな」
いくらなんでもそれは出来過ぎている。

「でも…」
俺はなにかもやもやと釈然としない気持ちを抱えたまま家路に着いた。