〈奈留side〉


雅志がパリに一度顔を出した日から、3ヶ月が過ぎようという、ある日。

今日も、車に乗って普通に運転して、研修先の動物病院に行く…はずだった。

だけど…

運転している最中、急に目眩に襲われた。


キィィッ―!

勝手にメーターが速度を増していく。

半ばパニック状態の中、足元に目を落とすと、ブレーキとアクセルを踏み間違えたらしい。


ヤバいっ!!


ドカッ!!


どうやら、前の車にぶつかってしまったみたいだ。


運転手の白人の男の人が、私に向かって何かを言ってくる。


私…フランス語…全く分からないのに…


すると。


「ウゥッ…!」


いきなり、お腹に痛みを感じた。

かき氷を食べ過ぎたときのような、持続性のある嫌な痛み。

この症状は、最近多いから、気にも留めていなかったが、
今回は痛みが強い。

…殴られたからかな?


「あのさ、何してるのかな?
女のコをいきなり殴るって、紳士としてやっちゃいけないでしょ。」


突然私の前に、白衣を着た男の人が。


フランス人の彼は、吐き捨てるように何かを言った後、去っていった。


「すみません…助けてくれて…ありがとうございます。」


「大丈夫?
いやいや、こちらこそ。
いつも娘がお世話になってるからね。」


娘って誰のことだろう…

それを男の人に尋ねようとしたら…
またあの痛みが襲ってきた。


「お腹…痛いっ…痛いよっ…」


「言わんこっちゃない。
ホラ、行くよ?」


そう言って男の人の車に乗せられて、到着した先は、日本でお母さんが勤めている産婦人科とよく似た外装の病院があった。