踏み込んで懐に入ったあたしは、ギョッと驚いている空の両手首を掴んで壁に押し付けた。


この後、何が起こるのか察している空は見る見る頬を紅潮させてブンブンブンブン、千切れんばかりにかぶりを振ってタンマを申し出てくる。往生際が悪い。


「もう逃げられない」


じゃあどうするか。
素直に受け止めればいいさ、目と鼻の先の距離で、ニッと相手に綻んだ。


「あたしとのキス、好きだもんな。嫌なら抵抗してみればいいさ」

「ず、ズルイっすよっ。それ! お、俺が抵抗できないの知ってて言ってるでしょう?」

「分からないぞ。ヤればできるかもしれない」
 

「せ…、先輩っ、意地悪いっす! なんっすか、Sモードにでも入ってるんっすか!」
 
 
四の五の言うことが大好きな空の口を塞いだのは、この直後のこと。


空が抵抗するか?


勿論、抵抗なんかできる筈ない。
何故なら、空もまたキスが好きだから。知っていて意地悪を言うのは好き故に、だ。


よく言うだろ?


好きな奴には意地悪をしたい、と―――…。



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