“事件”が起きたのは、その日の放課後だった。

私と慎の煮え切らない関係にキレた男が1人──



私が部室へ向かって渡り廊下を歩いていると、部室のほうから後輩が真っ青な顔をして走ってきた。

「あっ!! 深月先輩、ちょうどよかった。早く!」

「ん? どうしたの?」
「いいから、早く!」

後輩のただ事ならぬ態度に、私も後輩の後をついて部室へと走る。

部室の入り口には部員が数人立っていて、中へ入ることができない。

みんな顔をこわばらせて部屋の中を見つめていた。

「……どうしたの?」

私の声を聞くと、みんながいっせいにこちらを向いた。

そして、無言のまま、道をあけてくれる。


そのとき、中から大きな声が聞こえた。

「どうなんだ、はっきりしろよ!」

え……?
この声は……?

私は慌てて声の聞こえた部室の中へ駆け込んだ。


そこで見たのは、信じられない光景。

ジャージ姿の陽人が慎の上に馬乗りになっていて、今にも慎に殴りかかろうと拳を振り上げていた。

その顔は真っ赤で、赤く充血したふたつの目は床に倒された慎を睨みつけている。

そして、陽人の背後には同じくジャージ姿のヤマタロ。

陽人を後ろから羽交い絞めにして、必死にその動きを固めている。