「えっ…?」

姫羅木さんの言葉に僕は目を丸くする。

「結界って…」

「とぼけるでない」

彼女は鋭い視線で僕を見た。

「余所者が入ってきたらわかるように、わらわはこの近隣の全ての山々に結界を張っておる。人間だろうが野狐だろうが物の怪だろうが、わらわの結界を潜り抜けてくれば必ずわらわにわかるようにしておる。じゃというのに…」

ズイと。

姫羅木さんは一歩踏み出す。

美人で可愛い顔立ちなのに、有無を言わさぬ威圧感。

「お前は事もあろうに、わらわの結界を『破って』この山に入ってきたな?」

「結界を破ってって…」

あ…。

姫羅木さんみたいな美人に顔を近づけられてドギマギしていた僕は、ふと思い出す。

そういえば坂道を立ち漕ぎしていた途中、何だかビリッとする感覚が走った事があったっけ。

あれが姫羅木さんの言う、『結界を破った』って事か…?

「申せ!」

更にズイッと。

姫羅木さんは僕に顔を近づける。

その頭には…「!?」

尖った一対の獣耳、キュートなヒップからはフサフサの尻尾が顔を覗かせる。

「雄大、お前は何者じゃっ!」