(一)


水竜は困っていた。

「高天原に神留り坐す、皇親神漏岐、神漏美の命以て、八百萬神等を神集へに集へ賜ひ、神議りに議り賜ひ」


語り継がれる淡々とした祝詞には頭を痛める。


これが毎日、湖の主たる自分を呼び出すために巫女が祝詞を唱えるのだ。


『まったく、呆れる小娘よ』


その理由というのも、どうにも、この巫女は全妖怪お友達計画なるものを企てていて、その一つとして自分と友達になりたいらしい。


馬鹿げている。


『人間風情が』


妖怪と友達などと、身の程知らずと言いたいところだったが、この巫女――御巫依子(みかんなぎ・よりこ)の場合、話が別だった。


退魔のエキスパート。風の噂では、どんな妖怪も札一つで退治してしまうらしい。


龍種といっても、日本育ちの湖の主だ、妖怪に枠組みされてしまう。