「ねえ、おばちゃん。このトマト傷はいってるしさ~……もうちょっとまけとこうよ~」
 
 腹が減ったなどという悪魔のために出かけた近くの商店街。

 一人でいいと言ったのに、それを聞きもせず勝手についてきたマリアさんは行く先々で値切り交渉。

「マリアさん……別に値切らなくても普通に買い物できるくらいのお金ぐらい……」

 後ろから一応ひきとめてみたものの。

「何言ってんの~! 値切れるもんは値切らないといざという時三途の川渡れないくらい貧乏になっちゃってるかもしれないじゃないっ」

 案の定聞く耳無し。

 その前に天使や悪魔がいて三途の川?

 宗教観もなにもあったもんじゃない。滅茶苦茶だ。

「ふう……」

 これまでのやりとりで、抗議しても無駄なのはもう思い知っている。

 僕は小さく溜息を吐き、元気に値切りつづけるマリアさんに買い物を託す。

 値切るというより難癖をつけている……に近いけど。

 みて見ぬふりをすることにして、視線を他所に移して待ちながら、ぼんやりと考える。