腕時計で時間の確認をすると、9時を過ぎていた。

今日も遅くなった。

そして、陽平に離婚届を突きつけることができなかった。

せっかく園子に頼んで持ってきてもらったのに。

千広は息を吐いた後、歩道橋に視線を向けた。

「…いた」

向けた視線の先には、見覚えのある人影があった。

千広はその人影に近づくため、歩道橋の階段をのぼった。

「周さん?」

その人影――陽平は声をかけた千広の姿をとらえると、
「お疲れ」
と、言った。

「歩道橋で何をやってるんですか?」

千広は陽平に歩み寄った。

「別に何も」

そう答えて、陽平は手すりにもたれかかった。

千広はバッグからそれを出すと、陽平に突きつけた。

「…何だ?」

突きつけられたそれを見た陽平は聞いた。

離婚届だった。

「離婚してください」

千広が言った。