私がアイツと出会ったのは小5の時。

アイツは2学期からの転校生で、アメリカ帰りの帰国子女だった。

『今日から、このクラスの仲間になります。小山薫くんです。』

担任の先生がそっと両肩に手を置いて紹介した男の子。

『森田さんの"香"と小山くんの"薫"は両方とも"かおり"、"いい匂い"っていう意味で、"薫香"っていう熟語は"とてもいい香り"ってことなのよ。』

先生はとても風流な先生で、私とアイツの名前で"薫香"という言葉が出来ることに何故か感激していた。

黒板に並んで書かれた"薫"と"香"。

その時からだった。

アイツが私の中で特別な存在になったのは。

クラスの男の子はもれなく名字で呼んでいた私だけど、薫だけはずっと名前を呼び捨てにしていた。

何故だか分からない。

だけど、薫って呼ぶとすごく近く感じて、自分が一番近い存在になれた気がしたんだ。

それから中学・高校と腐れ縁みたいに何度も同じクラスになったけど、いつしか私は薫と呼ぶのを止めた。

薫って呼んでも、いつまでたっても私はアイツの近しい存在にはなれなかった。