「乃愛、フルーツの下準備お願いできるか?」




「………………」




「乃愛!」




あたしはハッとして杣沢(そまさわ)さんを見た。




杣沢さんはこのバーのオーナー。つまりは雇い主。




杣沢さんのおかげであたしはメインバーテンダーをやらせてもらってる。




「あ、は、はい!今やりますっ…」



あたしは慌てて果物ナイフとフルーツを取り出し、下準備を始める。




すると杣沢さんは不思議そうにあたしを見る。




「珍しいな、乃愛が取り乱すなんて」




杣沢さんはクスクスと笑いながらグラスを拭いている。




「いえっ…そんなことありませんよ!」




あたしはナイフを持っていない方の手をブンブンと振り、否定する。




「どーなんだか…」




杣沢さんは困ったように笑うと、拭き終わったグラスを置いた。