「....ハァ。」

場所は変わり、車の中。

ことりは大きなため息をついた。

「お疲れ様、ことりちゃん、思ってたよりどうにかなってよかったよー。」

運転席に座るのは、マネージャーの木村。

「どうにかなんて、なってないですよ。」

状況は凄まじく悪化しました、とことりは呟いた。

「...でも、大丈夫だって!」

「どこがですか!やっぱり私、お兄ちゃんの代わりに仕事するの

今日でやめます!こんなの、絶対無理です!メンバー同士もそんなに仲良くないし、

私、嫌われてるし...来月のコンサートなんて、聞いて、ないし...。」


だんだんと声が小さくなっていく。

そんな彼女を見て、木村は苦笑した。

「陽君も、初めは今のことりちゃんみたいだったなあ。」

「え?」

「何度も仕事で失敗して、移動中に泣きながら弱音を吐いて、

そのたびにもうこの仕事やめたいって言ってたよ。」

懐かしいなあ、と木村は言う。

予想外の言葉に、ことりは驚いた。

家では仕事をやめたいなんて一言も言っていなかった。

いつも、楽しい と言っていたのだ。

自分や母親を心配させない為に、ずっと弱音を吐くのを我慢していたのかもしれない。

ズキン、

ことりの胸が痛んだ。


「だから、大丈夫だって~。慣れないのは最初だけだしさ、

ことりちゃんならイケる。」

「どこからその自信がくるんですか。」

「まあまあ。...ことりちゃん、もう少し頑張ってくれないかな?」

「...え、」

「無理そうな仕事は、できるだけ断ってほかのメンバーにまわすし、

...お願い。」

鏡越しにうつった木村の顔は真剣だった。

「....。」

ことりは迷う。

このまま自分が陽の代わりを務めていても、きっと、いつか限界がくる。

しかし、今まで誰かに頼られたことがなかったことりは嫌だと思う反面

嬉しいと思う気持ちがあった。