カチカチカチ...
ほとんどの家具が白で統一された、あまりに生活感のない殺風景な部屋に不似合いなスクールバッグとカラフルな携帯電話。
その携帯電話に異常なほど集中し、画面に文字を打ち込む女子高生。彼女の名前は市川 日向(イチカワヒナタ)。今年で17歳になる、高校二年生だ。
高校生とは言っても、人前で笑って楽しそうにしたり、部活に真剣に取り組んでただいたりするわけではない。彼女は周りの高校生とはどこか違うオーラを放っていた。
中学生の頃から優等生で、ほとんど話さず、ただ静かに小説を読んでいた。今時、そんな高校生は珍しがられるかもしれないが彼女は友達もいなかった。
まさに絵に書いた様な真面目。模範生だった。スカートは色めく周りの女の子とは違い、買ったまま折らずにそのまま履いている。靴下は一年中黒で、それは真っ白な肌によく映えていた。
顔立ちは美人に分類されるだろう。通った鼻筋に整った少し薄めの薔薇色の唇。大きな切れ長の瞳は射抜くような強さを持っている。
真っ黒の髪を腰まで伸ばし、その髪をただ力無くだらりと垂らしている。細い指がいそしなく携帯のキーを叩く。
イメージとは違い、かなり手馴れた様子で文字をすばやく打つ。やがて用は済んだのか、携帯をぱちりと小さな音を立てて閉じた。
その小さな音は広いこの殺風景な部屋に虚しく響いた。
そのうち、
「ふう」
と、小さくため息を漏らすと静かに彼女は立ち上がる。
カラカラと独特な音を立てながらベランダの扉を開ける。彼女の部屋から直で繋がるこの場所に彼女は好んで居座った。
鮮やかな紅に染まる真っ赤な夕日を見つめながら、彼女はスクールバッグを枕にするようにし、その場に寝転んだ。
そして、彼女は静かに透き通る様に美しい瞳をゆっくりと閉じた。
まるでビスクドールが傷ついた身体を癒すように可憐で、どこか寂しい雰囲気を放つ不思議な少女は全身の力をゆっくりと抜いた。
だらりと白いシャツから伸びた腕はシャツに負けないくらい真っ白で、本当にドールのようだった。


静寂に携帯電話のオルゴールのメロディーが溢れる。
それは、最後の審判が終了した合図だった...