『其は我が半身なり』。それは竜と契約を結ぶ際に述べる契約文の一節。かつてラグナシアの建国王が竜王へ贈った誓いの言葉でもある。
ずっと憧れていた一言であり、自分もいつか兄や姉のように、そして亡き父のような立派な竜騎士になる。幼き日の彼女は何の疑いもなくそう信じていた。















寸分の狂いもなく敷かれた石畳、咲き乱される花々は爽やかな風と共に春の匂いを運んで来る。だがそんな爽やかな空気の中、一人、忙しなく周囲を見回す少女の姿があった。
年の頃はせいぜい十代半ばほどだろう。

金糸もかくやの金色の髪は、光の滝のように背中を流れている。澄み渡る空と同じ色の瞳はやや落ち着きがない。
金糸の刺繍がされた制帽を被り、白と青を基調とした軍服を身につけている。下は揃いの青のスカートで、少女が歩く度、蝶のようにひらひらと揺れた。

しかしながら、軍服に着られている感は否めないし、明らかに“迷子です”と言った雰囲気を醸し出している。
実際、少女――ステラは迷っていた。

今年無事、竜騎士学校を卒業し、竜との血の契約を結ぶことが出来た。今日は待ちに待った叙任式。とは言っても正式な騎士ではなく、従騎士。つまり騎士見習いなのだが。それでもステラにしては大きな第一歩だ。

いくら竜騎士学校を卒業しても、竜と契約出来なければ竜騎士にはなれない。どんなに優秀だったとしても。
まあ、それはいい。それより重要なのは今、“どこ”にいるかということだ。

今年、試験を通過し、晴れて竜騎士団に入ることが出来た者はステラを入れて十人ほど。叙任式が行われるのは当然王城である。
ステラも張り切って真新しい軍服に身を包み、やって来たまでは良かった。

叙任式まではまだ時間がある。外の空気を吸うつもりがこの様だ。
広すぎてどこから来たのかさえ分からない。庭園はまるで迷路で、おまけに人一人見つからなかった。