『あつし、ちょっとこっちに来て』


朝から黒い喪服を着てる母親が手招きをしている

ミーンミーンと庭の木々に居る蝉は声を揃えず、不規則に鳴いていた

家の縁側の戸は全て開けられていて、無駄に広い庭が一望出来る


ヒンヤリとしている縁側の床に座り、あぐらをかきながらうるさい蝉の声を聞いていた


ズズーズズズーと口に加えていたチューペットを全て飲み干した


『あちぃな……』

そう呟き、ワイチャツのボタンを一つ開けた所で

『あつし!!』と母親の怒鳴る声がした


その瞬間、チリンと縁側に吊るされた風鈴が虚しく鳴った