わたしの前職は捨てられ猫。


いまから2年前のこと。
ある雨の夜。

タミコさんが住むマンションの前の公園で、わたしは段ボール箱に閉じ込められていた。最悪の監禁生活は、もう、まる一日経っていた。

わたしは生まれてまだ3ヶ月経たないくらいのチビ猫だった。

箱の中から脱出をはかるも、なかなか手足が届かず外に出られないでいた。

わたしはとてもパニックになって、大声で助けを呼ぶように鳴きつづけた。

まともにご飯も食べてなくて、お水も飲んでない。それでも振り絞れるだけの声で鳴きつづけた。

しばらくしても、期待むなしく時間が過ぎるだけ。

もうダメなのかな。わたしはこのまんま天国に行っちゃうのかな。

全身は雨で、ずぶ濡れ。

寒い。勝手に体がガタガタぶるぶると震える。

飢えと寒さで、意識がだんだん遠のいていく。。。

あー、もうダメだ、、、。

と、その時。

わたしの体がひょいっと宙に浮いた気がした。

わけがわからず、うっすらと目を開けてみた。

どうやら、体が宙に浮いたのではなかったらしい。

目に飛び込んできたのは、なんだか高そうなトレンチコートに身を包んだ女の人。そして何故か、わたしと同じく全身ずぶ濡れ。

彼女こそがタミコさんである。

そんなタミコさんに段ボール箱から抱き上げられたのだった。

わたしは必死で鳴いた。
力いっぱい鳴いた。
お願い助けて!と鳴いた。

「うちにくる?」

タミコさんはそう言うと、わたしをコートのなかにすっぽりと包んでくれた。

わたしは「ありがとう」と小さな声で鳴いた。

わたしも彼女も雨で濡れていたけれど温かかった。

とても温かかった。


ほどなくして、わたしは安心感からか、彼女の胸の中で意識を失ってしまった。


これが、タミコさんとの出会いだ。


以来、わたしはタミコさんと暮らす猫になった。



でもね、今でも実は謎なんだ。

あの夜、ずぶ濡れチビ猫のわたしをずぶ濡れ姿で抱き上げてくれたタミコさん。

どうして、涙がいっぱい溢れていたんだろう。


2年も一緒に暮らしているのに、あのときのタミコさん涙の理由が、わたしにはまだわかりません。