放課後。

背中まで伸びた黒髪の、女子生徒が渡り廊下を歩く。

玖宮 天眞。

どこにでもいそうな普通の女子生徒。

表向き平凡な天神学園にあって、天眞は今年の新入生の『普通』の象徴のような生徒だった。

個性の強い生徒が多い中、その普通さに惹かれて天眞に好意を抱く男子生徒も少なくない。

だが、彼らは知らないのだ。

彼女が普通に憧れながら、普通として生まれなかった事を。

「!」

そんな天眞の目の前に、一匹の黒猫が現れる。

シファ・クロナ。

天神学園の関係者ならば誰もが知っている、人間になれる黒猫。

天眞を見つめてニャーと細く鳴くシーに対し。

「そうか…お前も私と同じなのね」

彼女は憂いを帯びた瞳で呟いた。