「なん、だと…?」

「あれは、単純なまじないで騙せる程度のあやかしだよ。そこまで賢しい行動をとるはずがない」

 晴明はよどみなく説明する。

「なるほど…ん、待ってくれ」

 頷きつつ聞いていたりいは、ふと引っ掛かりを覚えて口を挟んだ。

「まさか…その裏が、万尋様、だなどと」

「さあ」

 しかし晴明からはなんとも気の抜けた答えが。

「さあって…」

「そこを突き止められないから陰陽寮は手を焼いてるんだよ…ただ、俺はその可能性はあると思う」

 晴明は多少歯切れ悪く先を続ける。

「あやかしの餌にするなら、純粋な子供のほうがいいんだろうし…妖気が出たり消えたりすることも、体内に飼ってるなら説明がつくし…でも、貴族の姫ばかり狙う理由がわからない」

 確かに、貴族の子供と庶民の子供では、普通に考えて庶民の子供のほうが襲いやすいだろう。

「俺、結構京を見て回ったりしてたんだけど、貴族以外でそんな話はなかった」

「そうか…」

 そんな不条理の理由などりいもさっぱり見当がつかない。

 しばし考えこんでしまう。


「まあ、それはともかく。…ひとつ言えるのは、」

 一呼吸おいて、晴明が話題を変えた。声を低くする。

「裏があの人でもそうじゃなくても、今後あの人は貴族の姫を襲うはずだ」

「何っ!?…うっ」

 りいはあまりのことにまたしても身を乗り出し、走った激痛に悶絶する。

「…つくづく学習しないよねえ」

 厭味というより本気で感心している様子の晴明の言葉である。

「…放っておけっ…今なんとっ」

「あの人貴族の姫を襲うよって。少なくとも俺ならそうする」

「あやかしの…餌を求めて?」

「そう。あの人が関係なくても、先に京で騒ぎが起きてるんだから、それを利用しない手はないよね?」

「…ああ…」