「りいお姉ー!」

 飛び込んできたのは松汰だ。

 泣いたのだろうか、頬が真っ赤で、目もとも赤い。

「りいお姉、ごめん、ごめんなさい…おいらがりいお姉を止めなきゃいけなかったのに」

 言いながらまたぼろぼろ泣き出す。

「いや、松汰のせいじゃない。私が勝手にあいつについて行ったんだから」

「だ、だってえ…ひっく」

 そんな松汰に苦笑しつつ、りいは松汰の頭をぽんぽんと叩いた。

「ほら、ご覧のとおり私は無事だ。泣かないで」

 肩に走った激痛は無視して笑ってみせる。

「お姉ー…」


「松汰…りいさんはお怪我をなさっているのよ?あまり甘えてはりいさんのお体に障るでしょう」

 松汰の背後からたおやかな声がした。

「真鯉お姉」

 松汰が振り返る。

「りいさんも。まだあまりご無理をなさらないでくださいな」

 心配そうな表情を浮かべる真鯉。

 罪悪感が刺激され、思わずりいもすみません、とつぶやく。


「お粥を炊いたのですけど、召し上がれますかしら。無理そうなら重湯をお持ちします」

 真鯉が運んで来た膳を下ろした。

 椀の中には粥が湯気を立てている。

「食欲がないかもしれませんが、少しでも召し上がらなくては。お怪我も軽くはありませんし、三日も寝込んでいらっしゃったのですよ」

「みっか!?」

 思わずりいは聞きかえす。

 三日も眠り続けたなど、人生で初めてのことだ。

 晴明の術が効き過ぎたのだろうか。

 いずれにしても時間を無駄にした悔しさに歯噛みする。

(この時間があれば万尋様を追って…)

「駄目だよお姉」

 松汰が心を読んだかのように言う。

「また無茶しようとしてるでしょ?駄目だからね、ちゃんと治して」

 涙のあとが残る頬を膨らませる松汰。

「松汰の言う通りです」

 真鯉も、おとなしく控えていた藤影もが頷く。

(かなわないな…)

 心を覆う悲しみが少し癒された気がした。