「慣れてるとは思ってたけど」

 先に口を開いたのは晴明だった。

「…俺と対等でいようとしてくれる人っていなかったから」
 
 箸先を見つめたまま、独り言のようにこぼす。

「思ってたより、俺、臆病だ」

「…止せ」

 りいもまた、膳から顔を上げずに遮った。

「そんな立派なものじゃない」

 またも情けなさが込み上げてきて、ぎゅっと眉を寄せる。

「お前のことを理解できていたわけではない。それに…私だってお前の力は羨ましい。羨ましいさ」

 術師としては誰もが羨むだろう。りいとて、晴明に嫉妬したことがないといえば嘘になる。

 その才能は、彼が望んで手にしたものではないのに。


「私とて、変わらん」

 絞り出すように告げると、晴明がくすりと笑った。

 場違いにも思える笑い声に、怪訝なまなざしを向けると、晴明は愉しげにこちらを見ていた。

「…なんだ」

「いや、羨ましいって素直に言えるりいが、俺は羨ましい」

 そんなことを言われても、と、りいは戸惑う。いつものようにからかわれているのか。

 だが、晴明は笑うでもからかうでもなく、ゆっくりと言葉をつないだ。

「難しいことだよ。…俺は、できない」

 本音を見せるなんて、できない。

 寂しい呟きだった。


(…確かに)

 晴明は、自分について多くを語らない。
 
 口数は多いようでいて、中身のない会話か、りいのことにしか触れてこない。

 これまでの会話の多くが、「りい」を主語にしていたな、と気付く。

 だが。