父が死んでから5年の歳月が流れた。
 私はほんの少しだけ性格も明るくなり、友達も増え、隣の席の男の子にちょっかいを出されてもやり返す程、たくましく成長した。あの頃は毎日学校へ行くのが楽しくて、「忍ちゃん、忍ちゃん」と慕われる事が自信に変わって、それが新たな友達を作る原動力にもなった。
 私はそんな生活の中で、ひどく調子にのっていたのだと思う。幼なじみの一美に些細な事で絶交を宣言した上、心無い言葉で彼女を傷付けた。
 元々、彼女にはいくつか不満があった。こっそり教えた好きな男の子の名を皆にばらされた事、他の子を交えて3人で遊んでいてガラスを割った際、責任を私1人に押し付けて逃げられた事、「バイバイ」を言わずに帰ったというだけで、私の苦手な犬を連れて家までやって来た事…時折見せる雪女のような冷たい表情に恐怖さえ感じてた。それがいつしか人を許す事を忘れた自分に小さなイラ立ちを重ね、人生で最初に出来た友を言葉1つであっさり切り捨ててしまう。
 最終的に絶交を宣言した理由は、“時間がないのに、待ち合わせ場所にすぐ来なかった”という些細な出来事だったのに、
 「あっ、のっぺらぼうだ!!」
 彼女が近くを通るたび、私は指をさして笑った。

 6年に進級すると、今度はクラスに転校生がやって来た。花子と加代、2人とも近くの同じ小学校からの転入で、私は友達を通じて2人と仲良くなった。聞けば、加代は親の離婚で転校し、前の学校ではかなりのイジメにあっていたという。少し癖のある長髪を無造作に後ろで1本に束ね、目には母親が妊娠中に夫から受けた暴力が原因で出来たという小さなアザがあった。
 私はそんな加代の存在が嬉しかった。友達は増えても未だ続くイジメと心の傷…私は心のどこかで自分より下の人間を求めていたのだろう。加代がいる事で、私は嫌われ者ナンバー1から2になる事が出来る。そしてそれは、大きな自信を与えてくれるのだ。
 加代は私よりひどいイジメにあっていて、「汚い、見るな」と言われたり、後ろからそっと近付いて髪を切る者もいた。
 それでも彼女は私と違い、滅多に泣かない。男言葉を巧みに使っては言い返していた。